発酵の神秘とそのパワー−6

小泉武夫 氏
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●大樽に忍ばせた「乾板」のみそ漬け。忘れられない味だねぇ 農学博士 小泉武夫 氏 1943生

 最後にとっておきのエピソードをお話しましょう。私の実家は造り酒屋だったから、毎年新潟や岩手から杜氏さんが来ていたんです。その杜氏さんたち、酒造りが終わって家に帰る前に、翌年自分たちが食べるみそを大きな桶に仕込んでいくんですよ。杜氏さんたちが戻ってきたときにはみそができあがっている。それを私たちもいただいていた。それはそれは、本当においしかったですね。

 だけど、ホントの話はここから。うちの親父はすごいグルメだったんだけど、毎年、杜氏さんたちが地元に帰っちゃうと、北海道の日高から幅30cmもの、今なら値段がつかないようなものすごい昆布を2俵分も買ってきて、杜氏さんたちがみそを仕込んだ桶に縦に突き刺していく。40本くらいもあったかな。

 それを杜氏さんたちが戻ってくるまで、そのままにしておくんですよ。そうすると、みそは昆布のうまみを吸い、昆布はみそのうまみを吸い……。まぁ、役者がそろっているということ。それで杜氏さんたちがまた戻って来るころ、昆布を全部引き上げちゃうんです(笑)。

べっこう色になったその昆布のみそ漬けをまな板の上にあげて、細かくきざんであったかいごはんの上にぶわーっとかけると、ホントにおいしくってね。これだけで、もう何もいらない。私の家では、「乾板(かしいた)のみそ漬け」って呼んでいましたね。「乾板」って昆布の異名です。私は昆布を突き刺す役と引き上げる役。みそといわれて一番の思い出は、これかな。

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