四家秀治の「ナイス!ピンアクション」−35

 「ゆめ半島千葉国体」ポスター(モデル:向谷美咲選手)
「ゆめ半島千葉国体」ポスター(モデル:向谷美咲選手)
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●日本女子アマチュアボウリング界を背負う人

 2010(平成22)年、第65回千葉国体、開会式で選手宣誓を務めたのは、地元千葉のバスケットボール代表黒田裕選手とボウリング代表向谷美咲選手の2人でした。長い国体の歴史でボウリング選手の選手宣誓は初めてのことでした。
 すでにJBC(全日本ボウリング協会)では中学生の頃から全国区だった美咲ちゃんは、高校3年生になっていました。彼女が高校2年のときJBCが発足させたユースナショナルメンバーの1期生、そしてユースのメンバーながらナショナルメンバーとともに(つまりナショナルメンバーの一人として)国際舞台を転戦していましたし、この年は5月の全日本選抜で、居並ぶ先輩たちを打ち負かして初優勝も飾っています。早くも日本の若きエースになりつつあったのです。
 そんな中で迎えた「ゆめ半島千葉国体」
 千葉県の期待、ボウリング界の期待を一心に背負って開会式会場の千葉マリンスタジアム(現QVCマリンフィールド)で壇上に登った美咲ちゃんは、臆することなく堂々と宣誓を行いました。黒田選手と交互に言葉を発する形式ですが、美咲ちゃんの方が遥かにサマになっており、私はこの模様をテレビで観ながら感動し、シビれ、「美咲ちゃん、カッコイイよ〜」と思わず叫んだのを覚えています。
 また、本番のボウリング競技では天皇皇后両陛下がご観戦されるというこれまたボウリング界初の緊張感あふれる雰囲気にも全く飲まれることなく、少年女子団体(パートナーは昨年このコラムに登場してもらった霜出佳奈ちゃん)、個人ともに完勝。圧倒的な存在感で、すべての期待に100%、いいえ、120%ぐらい応える見事過ぎる大活躍でした。
 彼女に初めて話を聞いたのは千葉国体の1年ぐらい前だったと記憶しています。とにかく、その物怖じしない態度といい、考え方、物の見方といい、今どきこんな立派な高校生がいたとは・・・と、私自身、感心のしっ放しでした。
 「でも、あの頃の私は自分のことしか考えていませんでした。ボウリング場では(真剣勝負の場所ということで)どの競技会でも大会期間中や、終了後の表彰式などのとき、他の選手と談笑するのはもちろん、話をすることさえほとんどありませんでした。父から言われてそうしていたのです。そういう父に反発する気持ちもありましたが、父の言うとおりにしてきてそれまでの私のボウリングがあったし、それで結果も出せていたわけで、逆らえなかったですね。20歳すぎたぐらいからですかねえ、少し父に物が言えるようになったのは。それでもあの頃(中学、高校)の私があったから今の私があると思っていますから父にはもちろん感謝しています。父だけでなく、母にも、周りの方々にも。ほんとうに皆さんに支えられてここまで来たなあという感じですね」
 中学1年生にして、中学選手権準優勝、それも最終ゲーム前まで楽勝ムードだったのに最終ゲームで130台という信じられない失速で優勝を逃し、翌年は優勝。高校選手権は1年生で優勝と、同年代では飛び抜けた強さを発揮してきました。
 常にみんなより1歩どころか10歩ぐらい先を行く美咲ちゃんですから、正直のところ近寄り難いような雰囲気を醸し出していたのは確かでした。周囲の人たちと全然しゃべりませんし・・・。美咲ちゃんの印象が悪かった人もけっこういたと聞きますし、美咲ちゃん自身もかなり辛辣な批判を受け、傷ついた事も少なくなかったそうです。それでも、
 「あの時代があったから今がある」
と言い切れるのはすばらしいと思います。
 美咲ちゃんは、お父さんにある程度物が言えるようになった20歳頃から、全体を見渡す大きな視点とコミュニケーションの大切さを意識するようになったそうです。
 その頃から近寄り難いような雰囲気はなくなり、親しみやすさが感じられる女子大生になってきたなあと私も感じていました。この4月からは学生最後の1年が始まっています。
「人と人との繋がりって不思議だと思います。あの千葉国体で選手宣誓をともにさせていただいた黒田さんは年齢が10ぐらい私より上なのですが、今もときどき連絡をくださいますし、開会式で千葉県選手団の旗手を務められた土居宏昭(陸上ハンマー投げ)さんは、私が今通っている大学(流通経済大)の職員をなさっているので、しょっちゅうお会いします。千葉国体までは、お二人とも、歳も離れていますし、違うスポーツの全く縁がなかった方ですからね」
 そう話す美咲ちゃんの目はキラキラ輝いていました。これは、ここまで充実したボウリング人生を歩んできたからこその人の輪の広がりとも言えそうです。

NHK杯優勝時の投球(提供:JBC)
NHK杯優勝時の投球(提供:JBC)

 このコラムを全国ボウリング公認競技場協議会事務局長の金子さんから任せていただいたとき、私は
“千葉県3人娘”(他の二人は箕輪加奈ちゃん、霜出佳奈ちゃん)
と勝手に名づけた、年齢が一つずつ違う千葉県出身の3人の若手期待のボウラーについては必ず書かせていただこう、と決めていました。
 3人娘の長女である向谷美咲ちゃんは、やはりトリでなければいけません。そのタイミングがきたと思って登場してもらいました。もう今や押しも押されもせぬナショナルチームのエースですから、美咲“ちゃん”では失礼なのは重々承知ですが、あえてここでは千葉県人の先輩として親しみをこめてそう呼ばせてもらいました。
 順調にキャリアを積み重ねた美咲ちゃんは、昨年秋には、東京国体で、成年女子として史上初の個人、2人チーム戦、4人チーム戦の3冠に輝き、今年2月の大学個人No.1を決める大学個人選手権、3月の全日本選手権に連勝。その強さは、まさに手がつけられないという印象です。
 でも、
「私、メンタルが弱いんです。それを克服しないと国際舞台では通用しないと思います」
という冷静な自己分析もできています。
 中学時代から圧倒的な強さを発揮してきた美咲ちゃんですが、実は、それぞれ3回ずつ出場した中学選手権、高校選手権、その6年間は、2位と優勝が交互で、連覇がありません。
 中1の最後の大失速はまだその年齢を考えればやむを得ないところもあるでしょうが、
 中3の時は“次女”箕輪加奈ちゃんの勢いに屈し、高2の時は、同ピンになり、9、10フレのプレーオフの末、久松美穂(当時日大三島高2年)選手に敗れました。タラ、レバはスポーツの世界ではタブーですが、それがなければ高校選手権3連覇だったわけで、彼女にとってはなんとも惜しい大会だったと言えるでしょう。
 こういった例だけでなく、確かに競り合いに強い印象はあまりありません。国体の選手宣誓を堂々とやってのけるたくましさがあるにもかかわらず・・・です。
 数々のビッグタイトル獲得は、序盤から突き抜けて圧勝というケースが非常に多いのです。

第52回全日本選手権大会(2014年)前列中央が向谷選手(提供:JBC)
第52回全日本選手権大会(2014年)前列中央が向谷選手(提供:JBC)

 今年の全日本も最終ゲームを前に55ピンのリードがありながら、最終ゲームでストライクが思ったように出ず、8フレでIピンをイージーミス、大逆転負けも有りうる状況になりました。ところが、10フレ1投目で追い上げる武部公英選手(大阪)が痛恨のF―I。半ば他力でなんとか逃げ切ることができましたが、ストライクが出なければ、確実にスペアで繋いで相手にプレッシャーをかけ続ける強さが国際舞台では必要です。それを美咲ちゃん自身もよくわかっているということですね。
 メンタルを強くして、国際舞台、それもどうせなら一気に世界選手権で個人の金メダルを取ってほしいものです。
 しかしながら、今月25日で22歳という若さにしてすでにナショナルチームの副将である美咲ちゃんは、個人として自分を磨くことは当然としながらも、その上で、
「ナショナルチーム内では、団体戦もあるわけだし、個人としてはライバルですが、絶対にチームワークは大切なので、仲間が高スコア出したら讃えながら自分も頑張るような雰囲気を常に作っていきたいですし、それをJBCの伝統にしたいですね」
ということもハキハキと話してくれます。
 どこまでも言うことが正しくて大きくてカッコイイ美咲ちゃんです。
 彼女は日本の女子アマチュアボウリング界をこれから(もうすでに、かもしれませんが)背負って立つ人でしょう。
 みんなで向谷美咲選手を応援しましょう!

世界選手権大会2013 前列一番右側が向谷選手(提供:JBC)
世界選手権大会2013 前列一番右側が向谷選手(提供:JBC)

※先月話題にした日本男子プロ9人のUSBCマスターズへの挑戦は、優勝争いとまではいきませんでしたが、私の予想を超える健闘ぶりでした。そのことについてはまた。

四家 秀治 (よつや・ひではる)

四家 秀治 (よつや・ひではる)

元テレビ東京アナウンサ− 2011年7月からはフリ−。テレビ東京在職中は、ボウリングの実況を多数経験。東京運動記者クラブボウリング分科会代表幹事と、武部勤衆議院議員が会長であるボウリング評議会の理事を2011年3月まで務めた

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